ついつい子どもに伝えたくなる!! 阿蘇の草原ハンドブック このウィンドウを閉じる
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解  説

3.草原をめぐる問題

(1)草原の危機
   図中、黒色で示す部分が、地図記号から判読した草原(野草地)です。明治・大正期から現代までに、その面積が大幅に減少していることが分かります。
 
○明治・大正期
阿蘇山は火口部と根子岳山頂以外は一面の草原。外輪山の外側にも草原が広がっている。
○昭和20年代
阿蘇山周辺の草原が旧白水村付近の南斜面や火口部、根子岳、杵島岳、高丘山頂部を中心に樹林化。外輪山でも南側では草原が大きく減少。
○現代
阿蘇山の草原。外輪山の外側にも草原はさらに減少し、火口の中心部から1q〜4qの圏域に島状に樹林地を含みながら草原が残っている。
   阿蘇の人々は、千年ともいわれる長い間、採草や放牧などに草原を利用してきました。その結果、色とりどりの美しい花が咲き乱れる採草地や、毒をもつ植物が咲き、牛が嫌いな植物を食べるチョウが舞う放牧地など、独特の生態系が成り立っています。このように人と自然が適切に関わり合って成り立つ自然の代表が阿蘇の草原であり、人と自然の共生の例として、阿蘇が世界に誇るべきものです。
 ところが、その阿蘇の草原が、いま危機を迎えています。上の図は、明治・大正期からの草原面積の減少の様子を示しています。日本一の広さを誇る草原ですが、その面積は減少を続けているのです。面積だけではありません。採草や放牧に利用する人の減少など、人と草原との関わりが薄れ、草原の質が低下しているのです。では、その背景について考えてみましょう。
 
1 農業の形態が変わったこと
 
阿蘇市郡の繁殖雌牛の飼育農家戸数・頭数の推移
飼育戸数、飼育頭数が減少しています

 化学肥料の普及などにより緑肥や堆肥としての草の利用が減りました。また、トラクターなど農業の機械化が進み、かつてはほとんどの農家で飼っていた役牛の飼料としての草が要らなくなりました。こうした農業形態の変化とともに、茅葺き屋根の家もなくなるなど、生活様式の変化もあって、採草という草原との関わりが薄くなりました。
2 畜産農家が減ったこと
   かつては役牛としての飼育とあわせて、ほとんどの農家が、現金収入のために仔牛を生ませる母牛を放牧していました。しかし、牛肉の輸入自由化に伴って仔牛の価格が下がったことや、高齢化や後継者がいないといった社会的な問題から、畜産をしない人が増え、放牧という草原との関わりが薄くなりました。
3 草原の維持管理が難しくなってきていること
   草原を維持していくには、採草や放牧などにより、人が利用することが大切ですが、それだけでは草原を維持できません。毎年春に野焼きを行って、草の芽吹きを助け、質の高い草原を維持しなければなりません。
 野焼きやその準備(輪地切り)の作業は、大変な重労働です。高齢化が進んだことや、12のように草原と人々との関わりが薄れ、草原を利用する機会が少なくなっていることなどから、管理されない草原も増えています。


(1)そして何が起きるのか
   自然環境の話をする際に、必ず出てくる「生物多様性」という言葉があります。これは、簡単にいうと「地球上には、たくさんの種類の生物がいて(種の多様性)、そうした生物が生きるためにたくさんの種類の環境があり(生態系の多様性)、そして、ある種類の生物の中にもたくさんの個体差がある(遺伝子の多様性)」と説明できます。今、こういった「生物多様性」を守っていくことが私たち人類の課題になっています。
 阿蘇の草原は、管理を怠ると、やがてヤブや林になり、次のような問題が起こることになるでしょう。
 
阿蘇の草原は世界でも例の少ないネザサやススキ、トダシバが生育する草原です。阿蘇の草原が減少し、その環境が悪化することは、地球上の生態系の多様性を減少させます。
阿蘇の草原には、世界でも阿蘇にしかない植物が生育しています。草原環境が悪化しそのような生物が絶滅すると、地球上の種の多様性を減少させます。
その他にも様々な影響が考えられます。阿蘇には、多くの観光客が草原景観を楽しみに訪れています。阿蘇は、荒々しい火山景観とのびやかな草原景観から国立公園に指定されています。草原が失われることは、国立公園としての資質を失い観光産業への影響もはかりしれません
また、草原が荒れて藪や林になることで、山火事や土砂災害などの危険性も高まります
そして何よりも、自然と阿蘇の人々との千年にもわたる共生の歴史に終止符を打つことになります
  長年放置されている草原
表層の土砂が崩れ、景観も悪くなるほか、雨等による土砂崩れなどの危険もあります。



(3)草原を守るために
   阿蘇の人々が大切に利用してきた草原は、日本が世界に誇る二次的自然です。このすばらしい環境を、未来の子供たちに引き継ぐためには、阿蘇の人々のみならず、都市に住む人々も一緒になって考えなければなりません。
 阿蘇では、地元の人が行う野焼きや輪地切りなどの草原管理の作業を手伝うボランティア組織が定着しています。このボランティアの方々には、都市に住む方も多く「阿蘇への恩返し」のために作業に参加されています。
 また、行政も様々な取り組みを行っています。環境省では、平成8年から、阿蘇の草原を保全するための検討や試験的な事業を進めてきました。都市の人々が参加して草原の維持管理作業を体験し、その手伝いをするツアーや、希少な植物を守るために最適の管理方法をさぐる実験などを、地元の方や研究者と協力して行っています。
 放牧や採草をして草原で働く人、里で野菜を作る人、阿蘇に住む人、都市に住む人、様々な人たちが手を取り合って阿蘇の草原について考えていかなければなりません
野焼き支援ボランティア

草原維持活動支援ツアー(牧柵修理の手伝い)

阿蘇草原再生シンポジウム(H17.2.12開催)


コラム モーモー輪地切り
重労働である輪地切りの省力化のため、牛が草を食べる行動を利用した防火帯づくりが検討されている。平成13年から環境省により実験と検証が行われているが、試行した阿蘇の牧野のほとんどから、草の量が減り、輪地切り作業が軽減したという報告があった。大型機械などに比べ少ない投資で行えるので、導入しやすい有効な輪地切り省力化技術として、また、環境に配慮した技術として期待されている。


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